名義借りについて
Ⅰ.名義借りとは??
海外進出実務における「名義借り」とは、会社を設立する際に他人にその名前(名義)を借りて、会社の登記を行うことです。
例えば、日本人のAさんが海外で会社を設立する際に現地人のBさんに名前を借りて、名義上、新会社の代表取締役になってもらう、と言った場合です。
この様なことは海外進出の際によくあります。では、「名義借り」は問題が無いのかと言ったら必ずしもそうではなく、むしろ問題が多いことの方が多いです。
では、何が問題なのでしょうか。
Ⅱ.名義借りの問題点
「名義借り」はそれ自体が問題、というわけでは無く、どのような状況でそれを行うかによって変わってきます。
[cat_box01 title=”事例1″]シンガポールでレストランの店舗を開店するために法人設立をする際、現地で他人に名義を借りて会社の取締役になってもらった。[/cat_box01]
シンガポールでは、外資が会社を設立する際に、設立時取締役(会社を設立する際に登記する取締役)として、シンガポールに在住している人が登記される必要があります。
このため、多くの場合では現地の弁護士事務所の弁護士や会計士事務所の会計士などに報酬や手数料を支払い、「名義を借りる」ことになります。これは全く問題はありません。
では、以下の場合はどうでしょうか。
[cat_box01 title=”事例2″]フィリピンでレストランの店舗を開店するために法人設立をする際、現地で他人に代表取締役になってもらい、会社を設立してもらった。[/cat_box01]
この事例2は上の事例1のケースと似ているため、問題無いと思われるかもしれません。しかし、よく見るとこの事例は上の事例1とは違います。
事例1では会社を設立するのはあくまでも自分です。ですが、事例2では「現地人に社長になってもらい会社を設立してもらった」、とあります。なぜ下の事例では現地人に会社を作ってもらったと言うケースとしたのか、ここに大きな理由があります。
別の記事でご説明しますが、レストラン(外食業)のようなサービス産業が海外に進出する際、特に新興国ではこれらサービス分野への外資の参入に規制をかけている場合があります。
今回のケースですと、事例1のシンガポールの場合は外資(外国企業、外国人)は100%独資(自分のお金)で、しかも少額の資本金で法人を設立することができます。しかし、フィリピンで外資が外食事業を行おうとすると、どんなに小さいお店の場合でも最低資本金として250万米ドル(日本円で約2億5,000万円)を出資する必要があります。
一方でフィリピン人がフィリピンでレストランを開店するために法人を設立する場合は少額資本で会社を始めることができます。
このため、多くの外国人は現地のフィリピン人に自分の代わりとなって会社を設立してもらうための「名義借り」を行うわけです。
本来は国が外資の参入を規制するために作ったルールを潜脱する目的で行われる「名義借り」であり、フィリピンの法律に反し「違法」となります。
・「名義借り」が合法か違法かは、進出先国の外資規制を潜脱する目的か否かで変わる。
Ⅲ.名義借りに付随する諸問題
この様に、外資規制を潜脱する目的で行われる「名義借り」は現地の法律に反するために明確に「違法」です。
そしてこの様な場合、往々にして現地で会社を代理で設立する「名義貸し」側のフィリピン人は資本力が無いことが多いため、日本人がフィリピン人にお金を渡して会社を設立してもらうことになります。
しかし、名義を借りる日本人側の日本の銀行口座から名義を貸すフィリピン側のフィリピンの銀行口座に振込が行われた場合、会社設立に使われた資金の出本が海外であることが分かってしまいます。こうなると、このお金を使って会社を設立したとしても設立時の資本の元手が海外から送られてきたお金であることから、この会社は「内資」(フィリピン)法人ではなく、「外資」(外国)法人として扱われるため、名義を借りる意味が無くなってしまいます。
この為、資金の出所が分からないようにするため、名義借りを行う多くの場合、現金を何回かに分けて現地に運び、名義を貸す現地人に物理的に渡すことになります。
この場合、100万円以上の現金の持ち出しを行う場合に税関への申告を忘れると、外国為替及び外国貿易法(為替法)違反となります。また、現地側でも現金などの持込みに関する制限があるケースがほとんどであり、申告を忘れると罰せられることになります。
このほかにも、現地でお金を渡したら最終的に持ち逃げされた、などのトラブルがよく発生するため、基本的に名義借りはお勧めしません。
・外資規制を潜脱する目的での「名義借り」は「違法」
・その場合、現金の持ち出し・持込みなど付随した問題点が多くある
・現地で名義貸し人にお金を持ち逃げされるケースも多い
→なのでこういった場合の「名義借り」はお勧めしない
それでもどうしても「名義借り」をしたい、と言った場合に少しでもリスクを減らす方法については、Noteの記事でまとめる予定です。