検討すべき進出形態③(フランチャイズ②)

高橋 祐希

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祐希
祐希
今回は、前回に引き続きフランチャイズのお話です。フランチャイズビジネスをメリット・デメリットについてご説明します。

はるか
はるか
前回はフランチャイズの3つの形態についての説明だったよね。

祐希
祐希
それぞれの形態のメリット・デメリットはご説明しましたが、総論的なフランチャイズビジネス、特にフランチャイザー側のメリット・デメリットを今回はご説明したいと思います。

Ⅰ.海外事業におけるフランチャイザーのメリット・デメリット

1.前提事例

先ずは前回のおさらいから。

検討すべき進出形態②(フランチャイズ)[copy_btn] Ⅰ.フランチャイズとは 日本の公正取引委員会はフランチャイズを以下のように定義していま...

フランチャイズというビジネスモデルは、日本の公正取引委員会によって以下のように定義づけされていました。

「本部が加盟店に対して、特定の商標、商号等を使用する権利を与えるとともに、加盟社の物品販売、サービス提供その他の事業・経営について、統一的な方法で統制、指導、援助を行い、これらの対価として加盟社が本部に金銭を支払う事業形態」

そして、この定義を理解してもらいやすくするため以下のような事例に置き換えてみました。

事例1

「ある企業Xのビジネスモデル(Z)がとても優秀で知名度も高く、他社Yがこれと同じことを行いたいと考えた場合、XはYに対して自社のビジネスモデルを貸与した上でカーボンコピーしたものを利用する権利を与える。その際、YがXのビジネスモデルを全く同じ形で行えるようにするため、XはYに対して商標やメニューなどの知的財産権の貸与や、技術指導などの物理的支援を行う。その替わりに、XはYからそのビジネスモデルの使用料のような形で金銭的対価(ロイヤルティ)を得る仕組み」

この事例をモデルケースとして、以下について検討してみましょう。

2.コスト負担について

上のケースを見て頂ければ分かるとおり、Xは自分のビジネスモデルをYに貸与し支援を行う者であり、実際のビジネスを行うのはYになります。

YはZを行うために店舗を設置し、人を雇用し、ビジネスを運営することになります。ですので、Xとしてはイニシャルコスト(初期費用)をかけなくともZブランドの店舗ができることになります。

通常、海外で店舗を立ち上げる場合、最低でも数千万円の資金と実際の投資が必要にも拘わらず、フランチャイザーであるXは自分のブランドZの店舗を増やすのにイニシャルコストがほとんど掛からないことになります。これはフランチャイズビジネスを提供する側にとっては大きなメリットと言えます。

一方で、国によってはフランチャイズに関する法律を制定している場合があり、フランチャイザーとフランチャイジーが契約を結ぶ前後で、法定開示書面(Franchise Disclosure Document:FDD)を当局に登録するなど、フランチャイズビジネスを実施するのに一定の要件を貸している場合があります。

法定開示書面とは、フランチャイズビジネスの事業概要や契約の主な内容を記載した書面で、国によっては法定開示書面の準備を求める場合がありますが、記載内容として必要な内容も国によって違うところがあります。

例えばフランチャイズの発祥国である米国(Kentucky Fried Chicken:KFCがフランチャイズ形態のビジネスを初めて行ったと言われている)では、フランチャイジーがフランチャイズビジネスを実施する予定の州ごとに法定開示書面を州当局に登録する必要があります。

しかし、米国で求められている法定開示書面の内容はとても詳細なものであるため、作成することができるのは一部の弁護士やコンサルタントのみで費用も数百万円~一千万円以上掛かると言われています。

他の国と違い、米国のフランチャイズ法はフランチャイザーが法定開示書面を登録しないと、フランチャイジーとの間で契約は疎か、交渉を行うこともできないとされています。

・法定開示書面を登録せずに米国でフランチャイズを行っている事例も散見されますが、違反疑惑があれば米国連邦取引委員会(Federal Trade Commission:FTC)の査察対象となり、法定開示書面の提出が求められることになります。

となると、上の事例でXが米国でフランチャイズビジネスを行いたいと考えている場合、米国フランチャイズ法が求める要件を充足する法定開示書面についてコストをかけて作成した上、登録しないと、Yと契約交渉を行うことすらできません。フランチャイザーといえども相応のイニシャルコストが掛かることになることに注意が必要です。

フランチャイズ法については別の記事で説明します。

3.海外進出の容易性

次に、フランチャイズのメリットとして海外進出の容易性が向上することが挙げられます。

外資規制の記事でも書きましたが、国によっては特定の産業に外資が進出することを規制している場合があります。独資のみならず一部出資すら認めない場合においては、外資は現地に子会社を作って直営店舗を運営することはできません。

しかし、フランチャイズの場合はビジネスを運営する主体が内資法人となるため、フランチャイズ法の規定する要件さえ満たせば、その国の中で外国ブランドが多店舗展開化することは可能です。

また、上記2.で説明したとおり、通常開店までのイニシャルコストはフランチャイジー側が負担することがほとんどであるため、そういった意味でもフランチャイザー側の精神的・物理的負担が減り、海外展開へのハードルが低くなるとも言えます。

そして、フランチャイズビジネスの場合は自分が独資で直営店舗を行ったり、決まったパートナーと合弁企業を立ち上げた上での店舗開店を行う訳ではなく、独占契約さえ結ばなければ色々な現地の有力企業との間でフランチャイズ契約を締結することも可能です。

現地で経験がある企業がフランチャイザーとなれば、フランチャイズ運営ノウハウや調達ルート・市場を既に持っている場合もあり、そういった場合は多店舗展開が早く進むことも多くあります。

4.ビジネスモデルの維持・管理について

一方で、フランチャイズビジネスのデメリットとして挙げられがちなのは、ビジネスモデル(ブランド)の維持・管理の難しさです。

上述のとおり、フランチャイズの場合、自分が現地に進出して法人を設立し、直営店舗を運営するわけではありません。あくまでフランチャイザーとして自社のビジネスモデルやブランドをフランチャイジーに対して貸し与える形になるため、ビジネス自体が現地フランチャイザーに依存することになります。このため、自分たちのビジネスモデルが現地でしっかりと行われているか、自社のブランドが棄損されていないか、などについてフランチャイザーは現地視察などによって確認・管理していくことになります。

ご支援した案件でも以下のような事例がありました。

事例1

日本でも有名なラーメンのブランドが在ASEANのフランチャイジーとの間でフランチャイズ契約を締結した。開店準備支援としてマニュアルの提供やぎじぎゅつ指導などを行って無事開店したが、一年後、フランチャイジーによる店舗の運営状況を視察した所、マニュアルやメニューにないカレーが新メニューとして売られていた。現地では、同店舗はラーメン店としてよりカレー店として認知されていた。

事例2

日本で有名なパン屋がフランチャイズでアジアのある国に出店した。フランチャイジーは多店舗展開を行っていたが、日本のフランチャイザーが次の展開を見据えて同国でまだ展開していない都市のショッピングモールを視察した所、あるはずのない同社ブランドの店舗があった。フランチャイザーが知らないうちにフランチャイジーが勝手に開店した店舗だった。フランチャイザーへの報告がなかったため、仕入れ先も違い、商品の品質も粗悪なものが並んでいた。

上の二つの事例はある意味極端な事例ではありますが、ビジネスモデルやブランドの維持管理が難しいことを表す良い事例だと思います。

こういったことが起こらないようにするため、様々な方法でフランチャイジーを管理・監督していく必要があり、そのためにはコストもかかります。

5.対価の回収について

対価の回収の難しさもフランチャイズのデメリットとしてしばしば挙げられることがあります。

フランチャイズビジネスの場合、通常、ノウハウや知的財産の対価として「ロイヤルティ」や技術指導に対する対価としての「技術指導料」という形で回収するのが一般的です。

「ロイヤルティ」が継続的な収入になることが多いのに対して、「技術指導料」は都度の支払いになることが多いです。

また、よく問題となるのが「ロイヤルティ」の計算方法です。「ロイヤルティ」の計算方法として、何を基にするかにより大きく異なります。

計算方法としては主に、①利益配分方式、②売上歩合方式、③固定額支払方式があります。

①利益配分方式

売上からコストを差し引いた粗利から配分する方式。通常利益の何%という形でロイヤルティを支払う。

②売上歩合方式

粗利ではなく、コスト差し引き前の売上をベースとして計算する方式。売上の何%という形でロイヤルティを支払う。

③固定額支払方式

固定額をロイヤルティとして支払う方式。月々何万円という形でロイヤルティを支払う。

以上の三つのパターンの内、問題となりやすいのは①の利益配分方式です。この場合、利益が上がらないとロイヤルティの回収ができないことが殆どです。

確かに、事業を始めたばかりのフランチャイジーがまともに利益が上がらず赤字の場合、利益分配方方式だとフランチャイザーに対してロイヤルティを支払う必要がなく、負担が減るためフランチャイジーにとっては良いシステムです。また、フランチャイザーとしても、事業を軌道に乗せるためにはある程度の間ロイヤルティの回収を我慢する必要もあり、本来はこの方式が一番理にかなっているとも言えます。

しかし、海外展開の場合はそうとも言い切れません。海外でよくある問題の一つに、二重帳簿があります。

これは、現地の経理担当者もしくはパートナー自身が、複数の帳簿をつけ、相手によって見せる帳簿を変えてしまうという問題です。中には現地税務当局用、海外パートナー用、自分用の三重帳簿がある場合もあります。

この場合、現地パートナーはロイヤルティを出来る限り払わなくても良いようにするため、フランチャイザーに見せる用の赤字帳簿を作る場合があり、その帳簿をベースにしてしまうと、いつまで経ってもロイヤルティを回収できなくなってしまいます。

また、ご支援したケースでは過去に以下のような事例がありました。

事例1

日本の老舗レストラン(X)が海外のある企業(Y)とフランチャイズ契約を行った。Xは日本でフランチャイズ展開を行ったことがなかったため、Yの用意した契約書でフランチャイズ契約を行ったところ、契約後改めて確認したら事業が黒字化するまでは一切ロイヤルティの支払いをしなくても良いという内容になっていた上、日本から派遣する技術指導スタッフのコストは日本側が持つことになっていた。

このように、対価の回収の方法をしっかりと決めないと、いつまで経ってもロイヤルティが回収できないだけではなく、契約の内容によってはこちらが赤字となってしまう可能性があることに注意が必要です。

6.パートナーとの問題

フランチャイズビジネスはパートナーが必要となることから、パートナーとの問題も起こりやすいと言えます。

①パートナーが見つかりにくい

良いパートナーに巡り会えるかどうかがフランチャイズビジネスの一番の成功の鍵となりますが、良いパートナーは中々見つからないことが殆どです。

②契約の継続が難しい

フランチャイズビジネスの場合、ビジネス開始時点でフランチャイザー側が持っているノウハウや技術を移転します。そうすると、ある程度の段階ではフランチャイザーのサポート無しでも同じビジネスを実施するノウハウや技術がフランチャイジー側につくことになります。

そうすると、フランチャイジーとしてはロイヤルティを払ってまで契約を継続することが馬鹿らしくなり契約満了時に契約を更新しないという場合があります。

フランチャイザーとしては、ノウハウや技術だけ移転して、その後ロイヤルティが回収できなくなるとフランチャイズビジネスが破綻してしまいます。

このため、フランチャイザー側としては契約満了時に契約更新を拒否されないような仕掛けを作る必要があります。

Ⅱ.まとめ

フランチャイズビジネスのメリット・デメリットは以下のとおりです。

メリット

  • 初期コストが比較的安価ですむ
  • 自社による投資を行わなくとも自社ブランド展開が可能
  • 地域や市場ごとに有力なパートナーが選択できる
  • ビジネスがある程度確立すると、出費がほとんど無く定期的な収入を得ることができる

デメリット

  • ビジネスが現地フランチャイザーに依存する
    →店舗の運営・管理が難しい
    →ブランド価値の維持が難しい
    →出店計画などが相手側のペースで進む
  • 対価の回収が難しい
  • 契約の継続が難しい
  • パートナーが見つけにくい
  • ビジネスモデルを模倣されやすい

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髙橋祐希
髙橋祐希
海外進出コンサルタント
外食・小売・教育・理美容・コンテンツなどのサービス産業を中心に海外への進出・店舗開店支援を行います!
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